カスタマーハラスメント(カスハラ)対策について社会保険労務士が解説

はじめに

東京都において、全国に先駆けて2025年4月1日から「東京都カスタマーハラスメント防止条例」が施行されました。また2025年3月11日に閣議決定された労働施策総合推進法の改正案では、カスハラ対策を企業に義務づける内容が盛り込まれました。施行は公布から1年6か月以内とされているため、2026年度中の施行が予定されています。

今回は、カスタマーハラスメントについて法改正の最新動向から定義や相談窓口の設置方法、企業に求められる対応を社労士が説明します!

 

カスタマーハラスメントとは

労働施策総合推進法の改正案では、カスタマーハラスメントを「顧客等が行う社会通念上相当な範囲を超えた言動であって、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。 

なお、「顧客等が行う社会通念上相当な範囲を超えた言動」とは、「クレームの妥当性」「クレームを伝える手段・態様」の2点から総合的に判断されるものとしています。なお、顧客等からのクレームには、商品やサービス等への改善を求める正当なクレームもあるため、顧客や取引先からのクレーム全てがカスタマーハラスメントに当たるわけではありませんが、一方で過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけたりする悪質なクレームもあることから、事業者にはカスタマーハラスメントから従業員を守る対応が求められています。

 

代表的なカスタマーハラスメント行為の類型

顧客等から就業者に対する行為の中で、カスタマーハラスメントに該当する可能性がある代表的な行為は以下のとおりです。ただし、就業者の業務内容によって顧客等との接し方が異なることや、実際に発生した個別事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、行為類型は限定列挙ではないことなどに十分留意する必要があります。

 

<クレームが妥当性を欠く場合の例>

・企業の提供する商品やサービスにそもそも過失がない

・クレームの内容が企業の提供する商品・サービスと関係がない等

 

<クレームの手段・態様が社会通念上不相当となる例>

◆以下はクレームの妥当性問わず不相当となる可能性が高いものとなっています。

・身体的攻撃(暴行、傷害)

・精神的攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)

・威圧的言動

・土下座の要求

・継続的な執拗な言動

・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)

・差別的な言動

・性的な言動

・従業員個人への攻撃、要求等

 

◆以下は妥当性によっては不相当となる場合があるとされています。

・商品交換の要求

・金銭補償の要求

・謝罪の要求(土下座以外)等

企業内におけるカスタマーハラスメントの判断基準

それではカスタマーハラスメントはどのように判断したらよいのでしょうか。顧客等の行為への対応方法は業界や企業により違いがあるため、各社であらかじめカスタマーハラスメント判断基準を明確にしたうえで企業内の考え方、対応方針を統一しておくことが重要です。

<判断・対応基準の一例>

・事実関係を確認し「自社に過失がないもの」、「根拠のない要求」は部門長に相談し丁寧に対応できない旨を伝える

・購入商品の破損、不備の対応ルール(どの程度の破損であれば返金・返品対応する)を明確に決めておく

・一定ラインを超える長時間に及ぶクレーム、繰り返す威圧的な態度、暴言があれば取引をお断りするなど

 

会社(人事)が講ずるべき対策

カスタマーハラスメントの対応は人事だけで対応すべきことは限られており、経営者、フロントオフィス(顧客と直接やり取りが発生する社員)と協力した取り組みが求められます。具体的には以下のような手順で進めていくとよいでしょう。

1.基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発

組織のトップが、カスハラ対策への取組の基本方針・基本姿勢を明確に示しましょう。

具体的にカスタマーハラスメントに該当する事例・対応ルールもあわせて周知すると社員の気づきとなりよいでしょう。

 

2.従業員(被害者)のための相談対応体制の整備

・被害従業員が気軽に相談できるよう相談対応者または窓口を設置し周知しましょう。

・相談対応者はカスタマーハラスメントに該当するか判断がつかない場合等も含めて幅広く相談に応じ、迅速かつ適切に対応しましょう。なお、相談談窓口はカスハラのために特別に設ける必要まではなく、パワハラ窓口等と一体となり運営することで問題ありません。また、必ずしも「相談窓口」「対策チーム」が必要なわけではなく、上記の役割を組織的にカバーできるような体制を整備できていれば問題ないと考えています。

 

3.対応方法、手順の策定及び社内対応ルールの整備と周知

・カスタマーハラスメントを受けた際に慌てず適切な対応が取れるように、各社の業務内容、業務形態、対応体制、方針などの状況にあわせてあらかじめ対応方法を準備しましょう。

なお、企業の姿勢が「顧客第一」であったとしても従業員への安全配慮義務は発生します。顧客等への対応は複数名で対応する、深刻化した場合は上長が対応するなど、顧客への対応方針にかかわらず従業員への配慮のための施策は必ず講じておきましょう

・対応ルールの周知方法としてカスハラ対策の研修を実施する、執行部より全社メールでアナウンスする、全社の掲示板にてアナウンスする等が考えられます。カスハラ研修は高い効果が期待される一方で実施における労力もかかるため、他のハラスメント研修と一体になって実施することもよいでしょう。

 

4.事実関係の正確な確認と事案への対応

・顧客等からのクレームがカスタマーハラスメントに該当するかの判断をするため、主張をもとに事実であるか確認する必要があります。

・事実関係の整理は焦らず慎重に行いましょう。

5.従業員への配慮の措置

・カスタマーハラスメントの被害を受けた従業員への配慮措置を速やかに行いましょう。

・従業員の現場での安全確保や精神面の配慮等が考えられます。

例えば従業員の安全の確保として、セクハラや暴行、暴言などがあった場合、上長が対応を変わり顧客等から従業員を引き離す(その企業の担当から外す)ことや、精神面への配慮として、特にメンタルヘルスの兆候がある場合などは、適宜産業医などへの相談対応を依頼してアフターケアを行う、専門の医療機関の受診を促すことや、ストレスチェックにて状況を密に確認し、問題があれば個別に産業医等に相談、本人の希望があれば時短勤務など柔軟に対応する等、心のケアを第一に考えましょう。

 

6.再発防止のための取組

・カスタマーハラスメントが解決した後も、再発防止のため取組を継続しましょう。

・適宜当事者に配慮しつつ、実際にあった事例として会社内(部署内)でアナウンスすることも有効です。

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。労働契約法で企業は従業員の安全を確保する「安全配慮義務」があると定められており、カスタマーハラスメント対策の基本方針や姿勢を明確にすることは、従業員が安心して就業できる環境整備につながります。

また、外部に対し自社のカスタマーハラスメントに対する方針を周知することで、事業者の姿勢が顧客等に対しても明確になります。さらに、カスタマーハラスメントを受けた就業者やその周囲の就業者も、実際のトラブルに係る事例やその解消に関して発言しやすくなり、その結果、再発を防ぐことにもつながることが期待されます。本稿が、その一助となれば幸いです。

 

【執筆者プロフィール】

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。