従業員50人以上となった場合の労働安全衛生法上の対応と従業員数の考え方について

 

はじめに

令和7年1月17日に行われた厚生労働省第173回労働政策審議会安全衛生分科会では、今後の安全衛生対策に関する建議が行われ、そのうちの一つであるストレスチェックについて、「現在努力義務となっている労働者数50人未満の事業場にも実施を義務とすることが適当」と義務化への方向性が示されました。

経営者の方や人事労務ご担当者にとっては、企業の成長と共に「常時使用する労働者が50人以上か否か」は常時気になる数字と考え、また対応する制度によってもこのカウントの仕方が変わってくるという点があり、弊社にも多くのお問合せがあることから、常時使用する労働者の範囲及び50人のカウントの仕方という視点で社労士が解説いたします!

 

労働安全衛生法における「常時使用する労働者」とは? 

労働安全衛生法の対象となる労働者とは、「労働基準法第9条に規定する労働者」(労働安全衛生法第2条)と同じと定められています。労働基準法上の「労働者」に該当する否かは、雇用、請負、委任等の契約の形式にかかわらず、実態として使用従属関係が認められるか否かにより判断されます。従って、労働安全衛生上の「常時使用する労働者」とは、日雇い労働者、パートタイマーなど臨時的な労働者も含め、常態として使用する労働者であることをいいます。「常態として」には細かい定義はないですが、実務上は、月1回も出社していないようなパートさんがいればそれは除外し、なんらかシフトに毎月入っている場合にはカウントする必要はあると考えます。なお、原則労働基準法と同じくしていますが、「職場で働く全ての労働者の安全を守る」法律であるため、派遣労働者を含むことが特徴となっています。以下が具体的な例となります。

「常時使用する労働者数が50人以上」になった際の対応とポイント

ここからは具体的に常時使用する労働者が50人になった際に安全衛生法上どのような対応が必要となるのかを見てみましょう。

①産業医の選任・届出・月1回の巡視

②衛生管理者(安全管理者)の選任・届出

③衛生委員会(安全委員会)の設置・開催と議事録策定

④定期健康診断結果報告書の届出

⑤ストレスチェックの実施・報告書の届出

⑥休養室の設置

⑦(安全)衛生管理規程、衛生委員会規程、ストレスチェック規程、健康情報取扱規程等策定

「事業場」の考え方

50人という人数は会社全体ではなく、事業場(場所)単位でカウントします。

労働安全衛生法上の50人以上の事業場の定義は「事業場とは、工場、事務所、店舗のように一定の場所において相関連する組織の下に継続的に行われる作業の一体をいう。したがって、一の事業場であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として一の事業場とし、場所的に分散しているものは、原則として別個の事業場とするものである。」という解釈があります。労働安全衛生法の事業場の定義は労働基準法の事業場と同じですので基本的には36協定の単位と言っていいと考えます。

健康診断実施と定期健康診断結果報告書の届出

正社員などの常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに一回、健康診断の実施が必要となり、深夜業務に従事する等の特定業務従事者に対しては、6ヶ月以内ごとに一回、健康診断の実施が必要となります。 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、上記健康診断の結果を監督署に報告することが必要です。

なお、健康診断の実施義務は、労働者の人数、事業場規模に関係なく、全ての事業場に実施義務があります。パート、アルバイトでも下記a・bの両方を満たす場合には、雇用形態にかかわらず常時使用する労働者として、健康診断の実施が必要です。

  1. 契約期間の定めがある場合でも契約期間が1年以上の長さで雇用契約をしている、または雇用期間を全く定めていない、あるいは既に1年以上引き続いて雇用した実績があること。
  2. 一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上であること。 

※ bにあたらない場合でも、aに該当し、同種の業務に従事する労働者の一週間の所定労働時間の概ね 2 分の1以上の労働時間数を有する者に対しても、健康診断を実施することが望ましいとされています。

 

また、「定期健康診断結果を報告する義務が発生するライン」である常時50人かどうかは、健康診断を受ける必要のないパート、アルバイトも人数に含めます。健康診断を受けないパート、アルバイトとは、上記a・bにあてはまらない、契約期間が1年未満、週の所定労働時間が4分の3以下の人も含めて50人以上になるか判断し、合計50人以上の場合、定期健康診断結果報告書の届出が必要となります。

従来労働者数50人以上で定期健康診断結果報告義務があった事業場が50人未満となった場合、健康診断は引き続き行う必要がありますが、監督署への報告は不要になります。

ストレスチェックの実施・報告書の届出

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに一回、「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等の報告書」(ストレスチェック)を所轄労働基準監督署あて提出する必要があります。ストレスチェック結果についても、労働基準監督署への報告をする必要があります。また、結果を従業員本人に通知し、必要に応じて医師による面接指導を実施することが必要となります。「ストレスチェックの対象者」は基本的に定期健康診断の対象者と同じ範囲となります。

なお、「常時使用している労働者が50人以上いるかどうか」の判断は、ストレスチェックの対象者(受診労働者)のような、契約期間1年以上や週の所定労働時間が4分の3以上をもとに判断するのではなく、常態として使用しているかどうかで判断することになります。 

したがって、例えば週1回しか出勤しないようなアルバイトやパート労働者であっても、継続して雇用し、常態として使用している状態であれば、常時使用している労働者として50人のカウントに含め、その合計人数が50人以上となれば、実施義務が生じることになります。

休養室の設置

雇用形態にかかわらず、常時50人以上又は常時女性30人以上の労働者を使用する事業者は、休養室又は休養所を男性用と 女性用に区別して設ける必要があります。これらは事業場において病弱者、生理日の女性等が一時的に使用するために設けられるもので、長時間の休養等が必要な場合は速やかに医療機関に搬送又は帰宅させることが基本であることから、随時利用できる機能が確保されていれば専用の設備である必要はありません。また、休養室又は休養所では体調不良の労働者が横になって休むことが想定されており、利用者のプライバシーと安全が確保されるよう、設置場所の状況等に応じた配慮が求められます。 空いているスペースを休養室として利用する場合は、直ちに利用できる体制を整えておきましょう。

・入口や通路から直視されないよう目隠しを設ける 

・関係者以外の出入りを制限する

・緊急時に安全に対応できる

ご参考:社会保険の適用拡大(短時間労働者)

労働安全衛生法上ではなく社会保険上の義務となりますが、令和6年10月から短時間労働者の加入要件が拡大され、「厚生年金保険の被保険者数が51人以上」の企業等で働く短時間労働者は健康保険・厚生年金保険の加入対象となりました。1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者の総数が51人以上となることが見込まれる企業等のことで、「特定適用事業所」として要件に該当する短時間労働者については社会保険に加入させる必要があります。

なお、法人事業所の場合は、同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所の被保険者の総数、個人事業所の場合は適用事業所単位の被保険者数となります。

特定適用事業所に勤務する方で、1週間の所定労働時間または1月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満である方のうち、以下の条件にすべて該当する方が短時間労働者も健康保険・厚生年金保険の加入対象となりました。

・週の所定労働時間が20時間以上

・所定内賃金が月額8.8万以上

・2か月を超える雇用の見込みがある

・昼間の学生でない

なお、社会保険の適用拡大により社会保険に加入となった場合でも、定期健康診断の受診対象者の基準は変わらないためご留意ください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。従業員数が50人以上になると、労働安全衛生法に基づき様々な義務が発生します。また社会保険の適用拡大とは従業員のカウントについても異なるため、整理しておくとよいでしょう。いずれにしてもこれらの義務に対応するには相応の時間が必要になるため、従業員数が50人以上になってから検討を開始するのでなく、50人に近くなり始めた段階で対応について検討を開始するのが望ましいと言えます。

従業員数が増えるにつれてどのような義務が発生するのかの概要を把握しておき、従業員数の増加傾向を見ながら少しずつ準備を開始するようにしましょう。

 

 

【執筆者プロフィール】

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。