私傷病による休職開始から復職までの対応について社労士が解説

はじめに

厚生労働省によると精神疾患を有する患者数は平成29年では約419.3万人だったのに対して、令和2年においては約614.8万人となっており、約1.5倍の人数に増加しております。実際に企業でもメンタル不調による休職対応が発生していることもあり、今回は私傷病による休職開始から復職までの対応について解説します!

 

精神疾患を有する患者数の推移

冒頭でお伝えしましたように年々精神疾患を有する総患者数が増加している傾向となっております。平成20年から平成23年にかけて減少したものの、それ以外の年は増加しており、特に平成29年から令和2年にかけては今まで以上に精神疾患を有する総患者数が増加しており、平成29年に比べ、約200万人増の614.8万人となっております。

また精神疾患を有する外来患者数は令和2年では586.1万人となっており、こちらも平成29年に比べ約200万人増となっております。疾患別では、「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」、「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」、「その他の精神及び行動の障害」の順に多くなっております。

メンタル不調の兆候を察知したときの初期対応

このように精神疾患を有する患者数が増えていることもあり、企業においてメンタル不調の従業員の対応や休職対応が必要な企業も増えている印象がございます。

まずはメンタル不調の兆候を逃さずに察知し、早期対応が大切になります。メンタル不調の兆候としては下記が例として挙げられます。

・遅刻・欠勤の増加

・ミスが多くなる、作業時間が長くなるなど業務パフォーマンスの著しい低下

・無気力、言動の変化、人間関係のトラブル等

 

上記の兆候がある従業員がいた場合にはまず上司や人事が本人との面談を行うことがよいと考えます。個別面談では最近の状況や睡眠が十分にできているかなどを丁寧にヒアリングし、必要に応じて病院受診の促しや産業医面談を設定して専門家の意見を聞くようにしましょう。

 

医師の診断と休職の判断

病院に受診した結果、医師により就労不可能で休職を要するとされた場合には必ず診断書を会社に提出してもらいます。また、企業には従業員に対する安全配慮義務がありますので、体調不良による遅刻、欠勤が続く従業員に対して、このまま就労させることが可能なのかを医師、産業医に診断いただく必要があります。会社から従業員に対して、診断書の提出を求めることができるように就業規則内に傷病による欠勤・遅刻等が続く場合には医師の診断書の提出を求めることができる旨を記載いただくのがよいでしょう。

 

休職の開始

医師や産業医が私傷病により就労不可の診断を出した場合には、安全配慮義務違反のリスクが高まることから就労不可と診断のあった従業員を労働させることは原則できません。その場合に雇用契約を維持したまま一定期間労働を免除する形の休職の取り扱いをする企業が多いです。休職期間については就業規則の定めによりますが、3~6か月を休職期間として設けている場合が多いです。

就労不可となった場合には就業規則等内の休職の定めにより、休職を開始する手続きを進めます。常時10人未満の事業所で就業規則の作成のない企業・事業所でも休職の取り扱いとすることは可能ですが、就業規則での明文化がないため休職開始前に双方の認識合わせを行い、後述する書類等で明文化しておくことが良いと考えます。

休職を開始するにはまず従業員より休職願と就労不可の診断書を会社に提出してもらいます。提出書類の内容を確認し、会社は下記の内容を含めた休職通知書兼同意書を発行し、同意を取得し、休職を開始します。休職や後述します休職期間満了による自然退職は労使

トラブルの原因にもなりますため、就業規則の定めに基づく内容を本通知書に必ず明記し、同意を得るようにしましょう。

(例)

・休職期間及び復職日

・休職中の給与支給について(支給しない場合にはしないことを明記)

・休職期間中の社会保険料、住民税の徴収方法(振込の場合には振込先、手数料負担)

・復職の場合には期間満了時までに治癒していること

・医師の診断書・復職願等の書類提出期日、復職可の診断方法

・復職後の所属部署、職務内容(原則は休職前の職務)など

・休職期限満了時に復帰できない場合の自然退職

 

休職中の対応とフォロー

休職中は給与がノーワークノーペイの原則により支給されない場合が多いため、社会保険より支給される傷病手当金制度の案内を行い、必要に応じて申請書類作成の支援を行います。その他に、休職期間中も1か月に1回など定期的に連絡を取り、回復状況や治療経過について確認を行い、必要に応じて産業医と連携しましょう。特に休職期間満了が迫っている場合には余裕をもって満了の1か月前など余裕をもって回復状況や復職に対する主治医の意見聴収、従業員の復職意思など復帰の可能性について確認しておくようにしましょう。また主治医の復職可の診断書をもとに、産業医面談や職場復帰支援プラン(リワークプログラム等)の調整を行う場合もあります。

 

復職の手続き

復職の際には復職願と復職可能と記されている診断書をセットにして、従業員から会社に提出してもらいます。主治医が復職可能と判断していない場合には復職させることはできませんので、必ず医師の診断書を提出してもらい復職可能かを確認します。産業医のいる企業ではその企業での従業員の実際の業務内容、業務負荷などを踏まえ、就労可能かを産業医に判断してもらいましょう。医療的には問題がなくとも、業務遂行が困難と産業医が判断される場合は復職延期となるケースもあります。

また、主治医・産業医の診断によっては勤務時間の短縮(時短勤務)、段階的な業務復帰(軽減業務から開始)、定期面談の実施(上司・人事・産業医)が必要な場合があるため、会社のできる範囲での復帰プランを考え、復帰後について従業員との復帰面談を行います。この際に休職前の労働条件と復帰後の労働条件が異なる場合には雇用条件変更通知書兼同意書などを作成し、同意を得るようにしましょう。

実際に復帰した後も決められた労働時間の勤務ができているか、勤怠に乱れがないか等を確認し、一定期間は定期面談を設定するなどして完全に復調し従前のパフォーマンスが発揮できる状態になるまでは引き続きのサポートが不可欠となります。

 

復職基準

復職ができる基準として、医師が復職できると認めた以上「段階的にパフォーマンスが戻ればOK」ということではなく、判例法理上もきちんとこれまでの業務が果たせることというのが前提とはなります。そのため復職においては元の業務でのパフォーマンスが出せることが大前提であり、本人が職種変更を希望せず、かつ元の業務でのパフォーマンスも出せないという場合は、そもそも治癒していないとして本来再休職も検討する可能性があります。

裁判例としては「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したときをいう」( 平仙レース事件 浦和地判昭40.12.16 判時438-56)と解し、従前の職務を遂行することが可能な程度に回復していない場合には、復職可能状態にあるとは認められず、労働者が就労可能な範囲で労務を提供することを希望したとしても、使用者にはこれを受領する義務はなく、また、そのような労務提供を受領するためにそれに見合う業務を見つけなければならない義務もないと判断している( アロマ・カラー事件 東京地決昭54.3.27 労経速1010-25)。ただしこのような判例がある一方、片山組事件最高裁判決(最1小判平成10年4月9日)、JR東海事件等は、従前の業務はできなくても、会社内に労働者が配置される現実的可能性がある他の業務があり、その労働者が当該業務ならできる場合、配転させるべき」という考え方の判例もありますため、復職後の業務についても企業内でできる範囲の配慮(短時間勤務や職種変更等)を行っていただくのがよいと考えます。

 

復職が難しい場合

休職期間満了になっても治癒せず、主治医や産業医より復職可能の診断が出ない場合には従業員を復職させることはできません。その場合には就業規則や会社の判断によって一度、休職期間を延長することや就業規則に定めがある場合には自然退職の対応が必要になります。休職を延長する場合には再度延長した内容の休職通知書兼同意書を作成し、再度締結します。また、就業規則の定めにより自然退職となる場合には休職満了による自然退職となる旨の休職期間満了通知書等を作成し、従業員に通知します。自然退職は就業規則で定めがある場合のみ有効になりますため、就業規則に定めのない企業では休職期間満了による自然退職とすることはできません。そのため、10人未満の就業規則作成義務のない企業でも休職など労使トラブルを未然に防ぐことを目的として就業規則を設けることや休職期間満了の自然退職を設けていない企業は本項目を追加いただくのがよいと考えます。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。年々精神疾患を有する患者数が増加している中、企業で働く従業員が精神疾患を有するご相談も増えています。まずは従業員の異変への早期発見、病院への受診・産業医との連携が大切です。その上で私傷病による就労不可や休職の診断があった場合には就業規則等の制度に則った対応や必要な書面作成など本稿を参考に一度社内で整理していただき必要な対応を行ってください。また、復職にはサポートと職場の理解が不可欠になります。企業の状況に応じてできる範囲で行っていただき、従業員の中長期的な活躍を支援いただければ幸いです。

【執筆者プロフィール】

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。