令和7年度 手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金について社労士が解説

はじめに

「若手社員の離職が多く、職場の魅力を高めたい」、「働き方改革や福利厚生の充実に手が回っていない」、「評価制度やキャリア支援が曖昧なまま放置されている」等、こうした従業員の定着率やモチベーション向上に課題を感じている都内の中小企業におすすめの奨励金として、東京都と東京しごと財団が実施する「手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金」が注目されています。

この奨励金は、従業員の「手取り時間」創出やエンゲージメント向上、さらには賃上げといった魅力的な職場づくりへの取り組みを支援する制度です。専門家派遣による相談支援も受けられ、具体的な制度導入から定着までをサポートしてくれます。

本日は、「手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金」について解説します!

 

本奨励金創設の背景と目的

東京都は、少子高齢化と労働力人口の減少が進行する中で、企業が持続的に成長し、従業員が長く安心して働き続けられる職場環境を整備することが喫緊の課題であると認識しています。本奨励金は、このような社会情勢に対応し、都内の中小企業を支援するために創設されました。その主な目的は、以下の取り組みを通じて、企業の生産性向上と従業員の定着を促進することにあります。

本奨励金の事務局は、公益財団法人東京しごと財団が担っています。

 

奨励金の概要と支給額とは

本奨励金は、奨励金対象事業者の要件を満たす事業者が、対象となる奨励金事業の中から2つ以上の取組を行った場合に支給されます。支給上限額は、最大で230万円です。

対象となる主な事業と支給額は以下の通りです。

 

◆「手取り時間」創出の取組(4項目): 1項目あたり10万円(上限40万円)

  1. フレックスタイム制
  2. 多様な勤務形態(選択的週休3日制・勤務間インターバル)
  3. 多様な正社員制度(短時間正社員・勤務地限定・リモートキャリア・職務限定・タームタイムワーク)
  4. 積立休暇制度

◆ライフステージを支援する取組(3項目): 1項目あたり10万円(上限30万円)

  1. 家庭応援特別休暇制度(セレモニー休暇・地域活動休暇・子ども長期よりそい休暇等)
  2. 産休・育業及び介護休業を支える従業員への支援制度
  3. 子育て支援勤務制度(慣らし保育・小1の壁を乗り越える勤務制度)

 

◆従業員のエンゲージメント向上に向けた取組(7項目): 1項目あたり10万円(上限40万円)

  1. 社外副業・兼業制度
  2. 人材育成方針策定、職業能力評価・目標管理・キャリア面談制度
  3. 社内メンター制度
  4. 外部キャリアコンサルタント活用支援制度
  5. 従業員表彰制度・報奨金制度
  6. DE&I推進への支援制度(育業早期復職支援・ひとり親家庭支援)
  7. 社員のつながり支援制度

 

◆賃金引上げの取組(1項目): 1人あたり12万円(上限10人まで、上限120万円)

  1. 時間あたり60円以上の賃上げ

 

奨励金対象事業者の主な要件とは

以下の要件は、原則として事前エントリー日から支給申請(取組の報告)日に至るまでの全期間を通じて、すべて満たしている必要があります。要件を満たしていないことが判明した場合、奨励金の支給対象外となります。

 

◆都内で事業を営む中小企業等であること

常時雇用する労働者数が300人以下であること。ここでいう「常時雇用する労働者」とは、期間の定めなく雇用されている労働者や、過去1年を超える期間引き続き雇用されている、または1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる有期雇用・日々雇用の労働者を指し、登録型派遣労働者は含みません。

◆法人の場合、都内に本店登記がある、または都内に事業所があることが必要です(都内で営業実態がない場合は対象外)。個人事業主も対象に含まれ、都内税務署への開業届出書提出が必要です。

◆都内に勤務する常時雇用する労働者を1人以上、かつ6か月以上継続して雇用していること(雇用保険被保険者に限る。休業中の従業員も含む)。

◆就業規則を作成し、企業情報の登録締切日以前に労働基準監督署に届け出ていること。常時雇用する労働者が10人未満の企業も、本奨励金においては労働基準監督署への届出が必須となります。就業規則の施行日は、事前エントリー日以前であることが求められ、労働基準監督署の届出済印(受付印)が押されたものが必須です。

◆労働関係法令を遵守していること。具体的には、労働者に支払われる賃金が就労地域の最低賃金額以上であること、固定残業代の適正な運用、法定労働時間を超える勤務における36協定の締結と上限時間の遵守、年次有給休暇の年5日取得義務の遵守などが求められます。

◆都税の未納付がないこと。納税義務があるにもかかわらず、法人都民税・法人事業税(個人事業主の場合は個人都民税・個人事業税)の未納付がある場合は申請できません。

◆過去に国・都道府県・区市町村等の助成事業で不正受給がないこと。

◆事前エントリー日より過去5年間に重大な法令違反等がないこと。

◆厚生労働大臣の指針に基づき、セクシュアルハラスメント等を防止するための措置を講じていること。

◆特定の風俗営業等を行っていないこと、暴力団員等に該当しないこと。

◆本奨励金と同一内容の助成金等を同時に受給していないこと。

「魅力ある職場づくり推進奨励金」(令和4年度~6年度)を既に申請・受給している場合の条件。既に受給済みの場合は、受給した取組内容と重複しない事業のみ申請可能です(ただし、賃上げの取組は再申請可能)。

 

申請手続きの主な流れについて

本奨励金の申請は、原則としてオンライン手続きプラットフォーム「Graffer(グラファー)」を通じて行います。

  1. 事前エントリー:

 「手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金Webサイト」からGrafferアカウントを作成し、オンラインで事前エントリーを行います。先着順ではありませんが、予定社数を超過した場合は抽選となります。事前エントリーの受付期間は年10回に分かれていますので、自社の状況に合わせた適切な回を確認してください。

また、事前エントリーは企業の担当者自身が行う必要があり、代理人による入力は認められません。

  1. 企業情報の登録(申請要件等確認書類の提出):

事前エントリー通過後、事務局から送られるURLから企業情報と必要書類をオンラインで登録します。多数の電子データ(PDFやスキャン画像)が必要となるため、事前の準備が重要です。

また、一度提出した書類の差し替えや追加提出は原則できませんので、提出前に内容を十分確認し、控えを保管してください。

  1. 専門家派遣希望日程登録:

企業情報の審査通過後、専門家派遣の希望日程をオンラインで登録します。この手続きも企業等の担当者が行う必要があり、代理人による入力は認められておりません。

  1. 専門家と相談(2回):

東京都社会保険労務士会に所属する専門家(社会保険労務士)と、貴社の人事労務管理上の課題や目指す方向性、自社に合った制度構築などについて、計2回、概ね2時間ずつの相談を行います。

なお、既に顧問契約のある社会保険労務士を専門家として選任することはできませんが、派遣時に同席いただくことは可能です。

  1. 専門家と相談の終了報告及び奨励金対象事業の登録(取組目標の設定):

2回目の専門家相談終了後、実施する奨励金対象事業(必ず2つ以上)とその具体的な目標をオンラインで登録します。賃上げの取組も実施する場合は、賃上げを予定している従業員の人数を「1人」から「10人」の間で選択し登録します。この登録人数が、賃上げに関する奨励金の上限額を決定します。

登録した事業は、取組期限または支給申請前まで、一度に限り変更が可能ですが、項目の追加や賃上げ対象人数の変更はできません。

  1. 奨励金対象事業の取組:

登録後、就業規則等の改定、労使協定の締結、賃上げの実施など、選択した事業の取り組みを開始します。

実務上、特に重要な点として、フレックスタイム制以外の制度は、労使協定の締結後に就業規則等の整備が必要です。一方、フレックスタイム制は、就業規則等を整備した後に労使協定の締結が必要です。この順番が逆になると奨励金の支給対象外となるため、十分な注意が必要です。

また、労使協定には具体的な制度内容を明記し、就業規則等と整合性を図る必要があります。

  1. 支給申請(取組の報告):

取組完了後、必要書類(労使協定、改定後の就業規則、賃金引上げに関する書類、賃金台帳、出勤簿など)を添えてオンラインで申請します。

  1. 奨励金支給額の決定と振込:

事務局による審査を経て支給額が決定されます。決定後、口座振替依頼書を提出し、指定口座に奨励金が振り込まれます。

実務上の留意点

本奨励金をスムーズに申請し、確実に受給するために、特に以下の点にご留意ください。

◆労使協定と就業規則の整備の正確性:

すべての制度導入に労使協定の締結が必要です(フレックスタイム制を除く)。労使協定には、具体的な制度内容を明記し、「就業規則○条のとおり」といった簡略な記載では不支給となる可能性があります。

就業規則等の改定においては、新旧対照表を添付し、改定部分が明確に分かるようにする必要があります。また、前回の施行日に追加記載する形で改定日・施行日を明記する必要があります。

また、労使協定で定めた内容と就業規則等の内容が必ず一致しているか確認し、整合性を図ることが重要です。記載内容が不一致のため制度内容が確定できない場合、支給対象外となることがあります。また、既に就業規則等に記載のある制度は、原則として奨励金支給対象外となります。ただし、既存制度が対象者を限定するものであった場合、その対象者を全従業員に広げる改定は対象となります。また、既存の無給の特別休暇を有給に変更するだけの取組は対象外ですのでご注意ください。

 

まとめ

「令和7年度 手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金」は、単に金銭的な支援に留まらず、企業が持続的に成長し、従業員がより働きがいを感じられる魅力的な職場環境を築くための、戦略的な支援策となり得ます。手取り時間の創出や多様な働き方の導入は、従業員のモチベーション向上や定着率改善に直結し、結果として生産性向上へとつながります。また、賃上げの実施は、従業員の生活の安定に寄与し、貴社への貢献意欲をさらに高めるでしょう。

本奨励金をきっかけに、人事労務管理体制を見直し、自社にあったよりよい制度を導入する機会としてぜひ検討いただけたら幸いです。

【執筆者プロフィール】

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島戦略社会保険労務士事務所

寺島有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。

一橋大学商学部卒業。

新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。

現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。